ベンチャーが行う資金調達というとベンチャーキャピタルやエンジェルからの投資となりがちで、どちらかというと融資はハードルが高いと言われる。それは銀行などの一般の金融機関にとっての融資はローリスクローリターンなビジネスモデルであり、ハイリスクハイリターンなベンチャーのビジネスとマッチしないことが多いためだ。
資本性ローン
日本政策金融公庫の資本性ローンを知っているだろうか。資本性ローンはハイリスクハイリターンなベンチャーに合わせて設計された融資制度だ。融資と投資のいいところを組み合わせたような商品なので特にシード期のスタートアップにとってメリットの大きいものになっている(そもそも融資と投資はどうちがうのかは別の機会に解説予定)。
今回はシード、アーリーのスタートアップにとって使い勝手のよい日本公庫国民事業が取り扱う資本性ローンを解説する(日本公庫中小事業にも同じ名前の資本性ローンの取り扱いがある)。
資本性ローンの特徴とメリット
資本性ローンは金融検査上自己資本とみなすことができる
融資=ローンは負債である。負債が資産を超えると債務超過となる。そうなると会社としての信用力がなくなる。ところが資本性ローンは融資でありながら(帳簿上は負債の欄に載るわけだが)他の金融機関がその決算書を評価する場合、資本と見なせるということになっている。つまり、負債でありながら、出資を受けたと似たような効果が得られる。ここが「資本性」と言われる所以だ。
返済期間と返済方法
5年1カ月以上15年以内、期限一括返済(利息は毎月払)となっている。
通常の融資は融資を受けたのち、毎月元金を利息と一緒に返済していく。資本性ローンは違う。融資時に設定した年月日(ここを融資時から数えて5年以上15年以内に設定する)に一括で返済することになっている(利息だけは毎月払い)。これもVCから投資を受けてファンド期限までにEXITを目指すことと近いイメージとなっている。これも他の融資にない特徴だ。
利率
利率は融資後1年ごとに、直近決算の業績に応じて、貸付期間ごとに3区分の利率が適用される。
売上高減価償却前経常利益率 | 貸付期間 | |||
5年1カ月以上7年以内 | 7年超9年以内 | 9年超12年以内 | 12年超15年以内 | |
5%超 | 5.85% | 6.25% | 6.65% | 6.95% |
0%以上5%以下 | 3.40% | 3.60% | 3.80% | 3.95% |
0%未満 | 0.90% | 0.90% | 0.90% | 0.90% |
融資の通常のイメージであれば決算内容が悪ければ金利が高く、良ければ低くなるということが一般的だが、資本性ローンは逆だ。政策的なベンチャー育成の観点から業績の悪い時の金利は極端とも言えるほど低く抑えられている。逆に業績が上向くと市場の金利より高めの設定となっている。Jカーブの成長を目指すベンチャーの金利負担を実情に合わせるための制度設計と言える。
担保・保証人
無担保無保証だ。代表者保証も不要である。
融資限度額
4000万円。ここ数年で2000万から3000万、今の4000万と拡充されている。
さてここまでいいとこずくめな資本性ローン、デメリットはないのだろうか
資本性ローンのデメリット
原則約定前に返済できない
お金ができたから、早く返そうと思っても原則認められない。長めの返済期間を設定して、早く業績が上向いたから金利もったいないし、先に返そうということができない。
報告義務
四半期ごとに経営状況について日本公庫に報告する義務がある。
だれでも対象となるわけではない
融資制度の特性上、一般の創業融資とことなり誰でも対象となるわけではない。新しいテクノロジーをもっている、新しいマーケットを創出する、など一定の制限がある。これについては個別に確認してもらう必要がある。対象となった上で融資の審査へ進む形だ。
デメリットはあるが、資本の希薄化をせずにシード期の資金調達ができるメリットはかなり大きい。またベンチャーキャピタルによってはシリーズA投資を行う前に、資本性ローンの利用を促すケースもある。VCにとっても資本性ローンは組みやすい融資であることも間違いない。
資金調達を検討する際は資本性ローンを確認してみるといいかもしれない。