九州に目を向け活躍するベンチャーキャピタリストにインタビュー シリーズ第4弾!
第4弾はVCとインキュベーターの2つの側面を持つオンラボの松田氏。シードアクセラレーターとして実績を積んでいるオンラボについての興味深い話となった。
Open Network Lab Program Director松田崇義氏
平成28年4月22日
Q まずはOpenNetworkLabのご紹介をお願いします。
松田氏(以下M):OpenNetworkLab(以下オンラボ)は2010年にスタートしました。我々は大きく3つのことをやっています。
一つはシードアクセラレータープログラム、これは起業家の短期育成を目的としています。
もうひとつは我々がもつシリコンバレーとのコネクションを生かしたメンターを招聘したイベントの開催。
最後の一つはシードアクセラレータープログラムを通じ、起業家のコミュニティが生まれており、そのコミュニティ運営をすることです。
Q:シードアクセラレラータープログラムについて、スキームやシステムについて具体的に教えていただけますか?
M:シードアクセラレータープログラムは3ヶ月間の短期集中プログラムです。1年に2回、プログラムを行います。我々は通称「バッチ(Batch)」と呼んでいます。1月から3月のウィンターバッチ(Batch)、7月から9月のサマーバッチ(Batch)を開催しています。
プログラムの大きな流れは、プログラム開始2ヶ月前くらいから募集を始めます。一回のプログラム募集につき80社から100社から応募をいただきます。その中から、われわれの支援を集中するために1バッチごとに5社から7社まで選抜させていただきます。半月前にはプログラム採択のスタートアップを通知し、スタートまでに過去のオンラボ生から心構えなどについて伝えてもらっています。
プログラムの3ヶ月間の大まかな流れについても説明します。
最初の1ヶ月間はMVPと言われる必要最低限の機能をもつプロダクトの開発を行い、並行してユーザーヒアリングを行ってもらいます。ここでいつも参加者に申し上げることは、「だれのどんな課題をどのように解決するのか」を適切に捉えられているのかという点です。この点について徹底的に検証していただきます。他のプログラムとの違いはこの点であり、特に「だれのどんな課題」を捉えられていない場合、我々としてはユーザーヒアリングのやり直しを指導します。おかげさまでオンラボ生からは「非常に厳しいね」と言われたりすることもあります笑
この課題感は「あったらいいよね」では「なくては困るもの」、つまり「痛みを伴う課題」ですね。お金をはらってでも解決したいかどうかを重要視します。そこをしっかり捉えられれば、2ヶ月目はそれをしっかりプロダクトに落とし込んでもらいます。
プロダクトを作る際は「優位性」を持ったサービスを作るように助言します。「強み」ではなく「優位性」を心がけてもらっています。サービスを作る際には「もの」の作ることのあとに、ユーザーを獲得するといった別々のステップに分けてしまいがちですが、我々はひとつのステップとして考え、プロダクトデザインをするように伝えています。
また、最初のユーザーができると、少しですが簡単なデータが獲得できます。そのデータをもとに今後のビジネス展開やプロダクトの修正点を決めていきます。
3ヶ月目はプロダクトの改善を行っていくことはもちろんなのですが、このシードアクセラレータープログラムの最大の特徴は、プログラムの最後にデモデイを実施することです。このデモデイで行うピッチ準備を3ヶ月目に集中してやっていただきます。ここでもビジネスプランをしっかりとブラッシュアップしますし、プレゼンテーションの準備もかなり時間をかけてやっていただいています。これについては他社が行っているアクセラレータープログラムと比較しても他社がびっくりするくらい徹底的に準備を行っています。前回の12期生は、オンラボが持つ鎌倉の施設に一泊二日の合宿を行いました。プレゼンテーションの準備を寝ずにやっていました。このデモデイ準備を通じ、その後のビジネス展開などが参加者自身非常にクリアになります。参加者の間ではこののデモデイ準備がもっともよかったと言われるケースも多いです。
デモデイ後には資金調達であったり、大手の事業会社と連携するということを目指すことがプログラムの大きな流れです。
Q:プログラムスタートの段階でシード投資を行っているのでしょうか?
M:はい。プログラムの参加条件として比較的少額の投資を受けてもらうことになっています。我々のスタンスとしてはシード資金というよりも、3ヶ月の運営資金と捉えています。あくまで3ヶ月間はしっかりとプログラムに集中してもらうための必要最低限の資金です。
Q:金額やシェアについてはいかがでしょう?
M:金額については最大1000万円です。ハードウェア開発なのかソフトウェアなのか、あるいは1人でやるのかチームでやるのかによって3ヶ月で必要な金額は変わってきますので、実態に合わせた金額をご提供しています。シェアについてはミニマム5パーセント最大10パーセントとしています。ここについては面談を通して、最終的に条件提示させていただきます。
Q:募集にあたっての必要条件はいかがでしょうか?対象などはありますか?
M:対象のジャンル、カテゴリーはということについてよくご質問を受けますが、前提として対象ジャンルなどは設けておりません。ただし、ITを使ったスケールできるようなビジネスモデルを考えているかが最低限の条件になります。
実際に12期生でもバイオテックのスタートアップを採用してます。また海外のスタートアップを採用していたり、国内外も問いませんし、もちろん本店所在地も東京である必要はないです。
Q:募集段階において、チームがあることやプロトタイプがあることなどの基準はありますか?
M:チームがなくても、プロトタイプがなくても採択しています。アイデアだけの応募だけでも採択しています。募集の条件として、採択後はしっかり事業としておこなっていくことです。つまり我々も投資を行うのでスタート時までに会社登記をして、チーム作りをしていただきます。ですので募集段階ではチームなどは求めていません。プロダクトとマーケットとチームを採択において検討をしていますが、主に創業者自身とアイデアを見ています。さらに我々はインキュベートも行いますので、プログラムを通じて成長できるかどうかをかなり重要視しています。ちなみに3回、プログラムに採択されなかった後、4回目の応募で採択されたケースもあります
Q:アイデアだけはあるが、本人がエンジニアでないケースは自分でエンジニアを探しているのでしょうか?
M:そのケースもありますし、外注をつかってプロダクトを作るケースもあります。中には3ヶ月間、1人でやりきるケースもあります
Q:プログラムの3ヶ月間は地方のスタートアップは東京にいる居住する形でしょうか?
M:できれば3ヶ月間はこちらにいるように極力お願いしています。その理由としては、バッチ制をおこなっていることが最大の理由にもなっているのですが、志は同じだがビジネスの方向性が違う集団がプログラムを一緒に受けることで、ピアプレッシャーが発生します。つまり、同じバッチを受けている人たち同士が他の参加者の進捗をみて焦りが生まれます。3ヶ月目くらいからとても効いてきます。リアリティをもってもらうためにも現場にいてもらうことは大事なことだと思っています。ただし、必ずしも東京に住む必要はないです。前回のバッチではタイのバンコクをベースにしているスタートアップが参加していましたが、その方達も要所要所で日本にきていただき、プログラムを受けていただきました。ですので、本拠地と東京をいったりきたりしながら参加してもらいます。普段は9時5時ここにいてくださいということではなく、我々が用意するプログラムのうち対面で受けてもらいたい時はスカイプでなく、参加をお願いしています。
Q:それはどれくらいの頻度でしょうか?
M:一概には言えないですが、大まかに言うと2週間に一度のペースですね。
ですので、最低2週間に1度東京でのプログラムに出席できれば、地方のスタートアップも問題なくプログラムに参加いただけます。東京ではオンラボのスペースをワーキングスペースとして提供もしています。
私たちは参加者に本拠地を東京に移すようなお願いはまったくしていません。東京へはノウハウを盗みに来て欲しいと思っています。メディアなどだけでは得られないノウハウを現地に持ち帰って欲しいと伝えています。
東京だといろんなものが発達しすぎていて生活をする上で不便を感じられないというところがあると思います。逆に東京以外の地域ですと、私も関西出身なのでよく感じてますが、生活する上で課題を感じることがあると思います。そういったことを身近に感じられるほうが、スタートアップとしての伸びしろが大きいのではないかと思っています。
アメリカのケースでもそうなのですが、ニューヨークは金融で発達し仕事も多くある状況ですが、IT企業が発達したのは西海岸、サンフランシスコ中心でした。サンフランシスコは結構不便なところもあって、不便を解決するためにイノベーションが生まれたというところもあると思っています。
同じようなことが日本でも起こりうるのではないかと考えていて、福岡だったり大阪だったりを本拠地にするスタートアップは逆にチャンスが近くにあるのでは思っています。
Q:3ヶ月後のデモデイではどんな方がオーディエンスとして参加されますか?
M:我々のグループであることなどは全く関係なくIT関係に出資されているVCはみなさんにお声掛けしています。海外のVCも含めてです。また、事業連携を模索している事業会社もお呼びします。
我々も投資をおこなっていますが、デモデイにおいては中立的なポジションを取っています。
Q:オンラボの卒業生にはどんなスタートアップがいらっしゃいますか?
M:過去に70組の卒業生がいます。そのうち40%が次回の資金調達をしています。全体の15%くらいはバリューエーションが10億円以上になっています。卒業した主なスタートアップとしては日本人で初めてY combinatorを卒業したAnyPerkさん、500Startupsを卒業したWHILLさんなど海外に通じるスタートアップが生まれています。あるいは国内で見ても、フリルさんだったり、最近ピッチイベントなどで活躍しているSmartHRさんだったりとスタートアップのなかでも名前が売れているスタートアップも生まれてきています。
Q:松田さんご自身のこともお聞かせいただけますか?
M:私がオンラボにジョインしたのは2年前です。新卒では楽天に入社しました。当時電子マネーのEdyという会社を買収しており、そこに入社後すぐ入りました。80人くらいの会社でいわゆるスタートアップの雰囲気があり、これから会社を大きくしていくというところを経験しました。その後、楽天グループという経済圏のなかで様々な経験をしましたが、もともと自分で起業しようとおもっていたので、楽天グループに入った理由は、起業するための力を蓄え、大企業の運営はどうやっているのかというものをしっかり見ておきたいとおもっておりました。その後、スタートアップを自分でやるか、スタートアップにジョインするかという選択肢に絞り、機会を探しているところでご縁があって今の会社を知り、インキュベーションという活動が非常におもしろそうだなとおもいジョインしました。
Q:インキュベーションの魅力とはどんなところでしょう?
M:スタートアップを自分でやる面白さももちろんあるとおもいますが、一方でスタートアップが伸びていく姿を間近でみる面白さもあります。我々のプログラムの3ヶ月間を通じて、成長する瞬間に立ち会えるのは大きいです。一番やってよかったなと感じるのはプログラムがおわって数ヶ月後に、卒業生が全く関わりのないメディアで「オンラボのおかげでいまの自分がいます」みたいなことをしゃべってくれてて、それをたまたま見かけたときなんかは嬉しいですね笑
Q:卒業したあとの参加者のコミュニティはどのような形で運営されていますか?
M:オンラボのプラグラムにメンタリングがありますが、メンターとしてオンラボの卒業生をお呼びしています。課題をしっかり把握することの大事さなどをインキュベーターの立場からだけではなく、当事者の立場から語ってもらうことで参加者に響くことも多いです。
Q:課題の見つけ方とヒアリングはどのようにするように参加者につたえていますか?
M:これは過去の卒業生が蓄積してきたノウハウという部分が大きいですね。よくあるケースとして、課題と解決をごっちゃにしてヒアリングをするせいで自分たちのプロダクトがイケてることを伝えるだけになってしまうケースや、「これはこうですよね」と誘導するようなヒアリングをしてしまっているケースなどが見受けられます。そうではなく、きちんとしたヒアリングの手法などもノウハウとして持っています。
Q:最後に九州のスタートアップに一言お願いします。
M:オンラボはスタートアップエコシステムを構築することを目的に活動しています。成功しているケース、失敗しているケースを身近でみてきておりさまざまなノウハウがたまってきています。われわれとしてはそのノウハウをみなさんにお伝えしたいと思っています。東京で活動していますが、東京以外ののかたにももっと積極的にメディアだけではつたわらないものも伝えたいと思っています。
オンラボのワーキングスペース 、Open Network Space