いまさら東京と比べることに対して意味はなく、福岡は福岡らしいエコシステムの構築をめざすべきだと思う。思うがあえて比べてみた。
現在、創業特区として盛り上がりを見せる福岡。福岡は盛り上がってますねーと九州外から聞くことも多い。 実際福岡のスタートアップ周辺で動いていると、盛り上がりがあるとは思う。
ただし、イベントなどの規模は当然東京ほどではないし、得られる情報の質、量とも歴然とした差があるだろう。
スタートアップにとって、ネットワークが何より重要なポイントだ。であれば、当然スタートアップは東京を本拠地として選ぶべきであろう。
しかしながら、福岡市を本拠地として選ぶスタートアップが少しずつではあるが増えてきていることも事実である。
ではなぜ彼らは福岡市を選んだのであろうか。
よく言われるソフト面の「答え」として以下の点がよく挙げられる。
1、生活コストが低い
2、食べ物が美味しい
3、空港が近い
4、コンパクトシティであり、自然が近く住環境がよい
たしかに、ここに挙げたことは感覚的には事実であり、福岡に移住してきた方、福岡に遊びに来たがる方も概ね同意見のようだ。ただし、感覚的な面もある。
そこでこの「答え」が正しいかどうか、できるだけ数字にして、定量的に測れるか試してみた。
1、生活コストについて
想定される条件はシード期のスタートアップとしてエンジニア デザイナー ハスラーの3人チーム。福岡においては中央区、東京においては渋谷区のコワーキングスペースを使用。ちなみに、天神のコワーキング、天神COLORの月額使用料が共益費込みで14,000円。対し、渋谷で15,000円のコワーキングがあることから、コワーキング使用料は大きな差は見られないため、考慮せず。
中央区にて一人暮らし男性の賃貸物件の平均占有面積である25平米~30平米のアパートを借りた場合の平均賃料は5万2千円となっている(インターネット調べ)。中央区内であれば、自転車での通勤も可能。バスとしても100円バスで往復毎日200円といったところか。
よって住環境による金銭的コストと時間的コストを以下試算した。なお、福岡と東京で差異がでないものについては、計算外とした。
(福岡)
平均賃料52,000円×3人×12ヶ月=1,872,000円
通勤コスト(月25日通勤とする)200円×3人×25日×12ヶ月=180,000円
通勤時間 15分×3人×25日×12ヶ月=225時間
食費光熱費ほか 20,000×3人×12ヶ月=720,000円
但し、定期的に情報の獲得のため、定期的に東京に行くことが必要。マーケティング担当が月に2回一泊2日で上京することを想定。
パック利用1回4万円×2回×12ヶ月=960,000円
移動時間 5時間×2回×12ヶ月=120時間
合計 3,732,000円
時間 345時間
(東京 ケース1)
家賃を福岡と同様の52千円とした場合、同様占有面積平均値の25平米~30平米とすると八王子近辺の賃貸物件が条件と合致。コワーキングスペースが集積する渋谷にて作業を行う。
平均賃料52,000円×3人×12ヶ月=1,872,000円
通勤コスト1424円×3人×25日×12ヶ月=1,281,600円
通勤時間(電車47分)1時間×3人×25日×12ヶ月=900時間
食費光熱費ほか 30000円×3人×12ヶ月=1,080,000円
合計 4,233,600円
時間 900時間
(東京 ケース2)
通勤時間を福岡と同様の15分とした場合の試算。
平均賃料114,000×3人×12ヶ月=4,140,000円
通勤コスト 266円×3人×25日×12ヶ月=239,400円
通勤時間 15分×3人×25日×12ヶ月=225時間
食費光熱費ほか 30000円×3人×12ヶ月=1,080,000円
合計 5,459,400円
時間 225時間
【生活コストについてまとめ】
福岡市と同様の家賃を払い、さらに月2回上京したとしても、生活コストは福岡の方が、年間50万程度低く、時間は555時間程節約できる。これは23日分の節約となり、効果は大きい。
また、東京中心部に住んだ場合、時間コストは120時間節約となるが、コストは150万高くなる。
資金が豊富なスタートアップであれば、東京中心部での起業も選択肢にはいるが、そうでなければ、福岡市における起業は有利に働く可能性は高いのではなかろうか。
2、食について
ミシュランガイドに掲載されている店舗のうち、シード期にスタートアップが通う店は星付きの店舗よりは割安かつ質の良い店舗と認定されたビブグルマン認定店舗だと思われる
ミシュランガイド東京2015ではビブグルマン認定は325店舗。一方ミシュランガイド福岡からは福岡県内でビブグルマン認定は66店舗であった。東京の飲食店総数は80,570店。福岡は10,007店である。
東京 325➗80570=0.4%
福岡 66➗10007=0.65%
東京より、福岡が認定される比率がなんと1.5倍以上高く、福岡の飲食店の平均的なレベルが高いことについてひとつの証左になりえないだろうか。
3、海外へのアクセス
主にスタートアップが狙うべき海外のマーケットは、欧州ではなく、通常アメリカもしくはASEAN地域である。その点を踏まえ、成田空港と福岡空港の利便性を比較する。
成田 | 福岡 | |
シリコンバレー(サンノゼ) | 直行あり 9時間35分 | 直行なし |
ニューヨーク | 直行あり 12時間55分 | 直行なし |
上海 | 3時間30分 | 1時間40分 |
ソウル | 2時間45分 | 1時間30分 |
香港 | 5時間 | 4時間10分 |
台北 | 4時間10分 | 2時間15分 |
シンガポール | 7時間40分 | 6時間35分 |
北米に行く場合は成田経由となる。ただし、成田空港自体が渋谷から1時間30分以上要するのに比し、福岡空港は天神から10分と近距離である。
アジア地域には地理的にも近いということは、アジアのニーズを取り込みやすいか。
4、自然環境について
自然との近接環境については分析を待つまでもなく福岡に利があることは感覚的にわかるが、拾える数字にて比較。自然設備の代表として、海水浴場、キャンプ場、道の駅の比較
を行った。
福岡県 | 東京都 | |
海水浴場 | 15 | 10 |
キャンプ場 | 22 | 11 |
道の駅 | 15 | 1 |
この数字に関しては、近接する都道府県も考慮にいれるべきではあるが、福岡が自然設備に比較的アクセスしやすい点は推定できる。
以上4つの福岡における創業のメリットについて分析を試みた。
当然ながら、データは不十分で、比較項目自体、福岡よりな結果になった感もある。
東京にくらべて足りないものは上述以外にもたくさんあるし(VCが少ない、先輩起業家がいない・・・など)、治安面の不安(風評を含め)やアジアに近いことによるPM2.5や黄砂などのデメリットもある。
ただし、生活のクオリティを保ちつつ、コストを低減でき、さらに東京までのアクセスにもすぐれ、創業特区としてなんとなくではあるが盛り上がっている福岡。すくなくともスタートアップに向いているといえるのかもしれない。
ということでみなさん、福岡での起業いかがでしょうか?